PixAI攻略本

「質」は何で決まるのか — 論文で測られていること、測られていないこと

モデル共通なぜ SDXL 中心なのか

最終更新 2026-09-10

目次(10 項目)

「もっと良い絵を出したい」を、扱える形に分けます。この記事は呪文の紹介ではありません。論文と公式資料で測られている効きだけを並べ、測られていないものは測られていないと書きます。

先に結論

要素 測られている効き
学習データの質(誰がモデルを作るか) 人の好みで勝率82.9%。数千枚の追加学習で出た差
潜在空間の器(VAEのチャンネル数) 再構成FID 2.41→1.06(4→16チャンネル)
サンプラーと刻み方の設計 測られているが、数値はSDXLのアニメ絵に転移しない(CIFAR-10での実験)
ステップ数を増やすこと 適正に達すると効かない(DDIMなら8と28がほぼ同じ絵)
品質タグ 起きるのは描き込みの増加。副作用として顔が似通う
プロンプトの構造 測られているが、2021年の別方式のモデルでの結果。いまは逆を向いている

まず「質」を4つに分ける

「質」という言葉のままでは扱えません。別の部品が担当しているものが混ざっているためです。

中身 主に決めているもの
情報量 細い線・文字・宝飾が保たれるか モデルのVAEと解像度
描き込みの量 密度が高いか、あっさりしているか 品質タグと学習データ
破綻の少なさ 手・指・関節が壊れていないか 語では直らない。修正の工程
好みへの一致 自分が好きな塗り・画風か モデルとLoRAの選択

⚠️ 「狙ったものが出ているか(意図一致)」はここに入れません。あれは質ではなく別の軸で、混ぜると判定ができなくなります(全体像)。

人の好みで大きな差が出ているのは、学習データの質

Meta のEmuという研究が、人の好みで二桁の勝率差という数字を出しています。11億枚で事前学習したモデルに、数千枚の「見て気持ちのいい画像」だけで追加学習をかけた実験です。

The key insight is that supervised fine-tuning with a set of surprisingly small but extremely visually appealing images can significantly improve generation quality.

結果はこうです。

比較 勝率
追加学習前の自分自身と比べて 82.9%
SDXL v1.0と比べて(見た目の魅力) 68.4%と71.3%(2つのベンチマーク)

方式も問いません。論文は"quality-tuning is a generic approach that is also effective for other architectures, including pixel diffusion and masked generative transformer models"と書いています。

⚠️ これは「モデルを作る側の手段」です。読者が自分でquality-tuningをするわけではなく、対応する行動は、そういう調整がされたモデルやLoRAを選ぶことになります。ただしプロンプトの調整と比べてどちらが効くのかは測られていません(後述)。

潜在空間の器は、数字で追えます

細い線や画像内の文字が保たれるかは、VAEのチャンネル数でかなり決まります。潜在空間の1点あたりに数値を何個持たせるかという値です(仕組み)。

チャンネル数
SDXLのVAE 4
NovelAI V4.5 16
NovelAI V5(2026年8月) 32

Stable Diffusion 3の論文が4から16に増やした効果を測っていて、再構成のFIDが2.41→1.06、知覚的な類似度が0.85→0.45です。

we find that increasing the number of latent channels d significantly boosts reconstruction performance

これはプロンプトでは動きません。モデルを選んだ時点で決まります。SDXLの4は、新しい世代の16や32と比べて小さい値です。

つまみは「適正の外にいるとき」だけ効きます

サンプラーと刻み方(スケジュール)の設計は、きちんと研究されています。EDMという論文が、拡散モデルの設計選択を分離して整理し、サンプリング側とトレーニング側の両方に変更を加えてCIFAR-10でFID 1.79を出しました。1枚あたり35回のネットワーク評価という少ない回数です。

⚠️ ただしこの数値はそのまま持ち込めません。CIFAR-10とImageNet-64という低解像度のデータセットでの実験で、SDXLでアニメ絵を出す話とは対象が違います。言えるのは「サンプラーと刻み方は測れる差を生む」という一般論までです。

ステップ数のほうは、このサイトで実測しています。DDIMなら8ステップと28ステップでほぼ同じ絵になりました(ステップ数)。つまり適正に達したあとは、増やしても質は上がらず費用だけ増えます(クレジット)。

プロンプトで「質」は上がるのか

ここは慎重に書きます。

品質タグは「良くしろ」という指示ではありません

masterpieceやbest qualityは、学習データの上位パーセンタイルに寄せろという指定です。Illustriousの論文では、この階層がDanbooruのポスト数で決められています。起きるのは描き込みの増加で、副作用として顔が似通います(品質タグ)。

PixAI公式も2〜3個で十分としています。並べる数を増やす方向には根拠がありません。

「構造化して書くほうがよい」は、別方式のモデルでの結果です

プロンプトの書き方を系統的に測った研究はあります。5,493回の生成を5つの実験に分け、51の被写体と51のスタイルで比べたもので、被写体とスタイルをキーワードとして分けて書くほうが、散文で書くより結果が読めると結論しています。

⚠️ ただし対象はVQGAN+CLIPです。2021年のモデルで、拡散モデルでもなく、生成は256×256でした。SDXLの話としてそのまま引くことはできません。

しかも世代が変わって逆を向いています。PixAIのTsubaki.3のプロンプト解説は題名からこうです。

Describe the Picture, Not a Pile of Tags

「構造化キーワードのほうがよい」も「描写するほうがよい」も、モデルの世代と方式に紐づいた話です。どちらかが普遍的に正しいのではありません。

破綻は語では直りません

手や指の破綻について、論文がはっきり書いています。

the model struggles to associate this with corresponding hand images, indicating its inability to accurately comprehend text containing hand-related information

モデルは手に関する記述そのものを理解できていないので、ネガティブにbad handsを足す方向では届きません。そこだけ塗り直すのが論文の答えです(修正ツール)。

「要素ごとの効きの大きさ」は測られているのか

要素の中では測られています。要素をまたいだ順位づけは、確立していません。

状況
同じ要素の中での比較 測られている(学習データの質=Emu、VAEのチャンネル数=SD3、サンプラーと刻み方=EDM)
要素をまたいだ順位づけ(プロンプト対モデル対つまみ) 確立していない

理由は指標が揃わないことにあります。Emuは人の好みの勝率、SD3のVAEは再構成のFID、EDMは生成のFIDで測っています。単位が違うものを並べて「こちらが2倍効く」とは言えません。実験に使ったモデルもデータセットも別々です。

⚠️ 「プロンプトよりモデルのほうが◯倍効く」という比較を見かけたら、出典を確かめてください。

測る道具のほうは整っています。人の好みを予測する指標が公開されていて、HPS v2は433,760組の画像ペアに対する798,090件の人の選択で学習されています。論文は"generalizes better than previous metrics across various image distributions"と書いています。ほかにImageReward、PickScore、HPS v3があります。

だから「効きの大きさを比べたい」なら、自分の用途で勝敗を数えるのがいまのところ確実です。

自分で測るときの設計

  • シードを固定する。これをしないと比較になりません
  • 1回に1要素だけ変える。品質タグとステップ数を同時に動かすと、どちらが効いたのか分かりません
  • 「1語変えて差が出たら効いた」は成り立ちません。Danbooruに0件のmedium shotに置き換えても絵は大きく変わった実測があります。差が出たことは、その語が効いた証拠になりません
  • 好みは勝敗で数える。「どちらが良いか」を並べて選ぶ形にすれば、主観のままでも集計できます(人の好みの指標が使っているのと同じ考え方です)

自分で確認する必要があること

  • PixAIのHiRes・アップスケール・顔修正が、実際にどれだけ質を上げるか。このサイトでは測っていません。機能があることと、効く量が分かっていることは別です
  • 生成解像度を上げると質が上がるのか。Illustrious v1.0は1536×1536をネイティブ解像度としていますが、上げた場合の差はこのサイトで比べていません。⚠️ SD3の論文は学習時の解像度とモデルサイズを上げるほど検証損失が下がり続け頭打ちの兆候が無いと報告していますが、これは学習のスケーリング則の話で、同じ学習済みモデルの生成解像度パラメータだけを上げた場合の答えではありません
  • モデルの選択とプロンプトの調整では、どちらが自分の用途で効くか。要素をまたいだ比較は確立していないので、自分の用途で勝敗を数えるしかありません

出典

2026年9月9日確認。9月10日にSD3論文の解像度スケーリングに関する記述を追記し、読みやすさのために文章を整理しました。この記事で引いた数値は、それぞれ別のモデル・別のデータセット・別の指標で測られたものです。横に並べて大小を比べられるものではないので、それぞれが「その要素は効く/効かない」を示していると読んでください。