手や顔の破綻はどう直すか — 論文が出している答えは「塗り直す」だった
目次(10 項目)
指が6本あったり、関節が裏返っていたりと、手だけがどうしても言うことを聞きません。
これは設定を間違えたからではありません。画像生成モデルの構造的な弱点で、それを扱った論文がいくつも出ています。読んでみたら、「プロンプトで直す」という選択肢は最初から俎上に載っていませんでした。
なぜ手だけが壊れるのか
論文が挙げている理由は、大きく2つあります。
1. 手そのものが難しい
This difficulty arises from the complex task of learning the physical structure and pose of hands from training images, which involves extensive deformations and occlusions.
変形と遮蔽です。手は形が大きく変わるうえに、指が指を隠します。同じ「手」でも、学習画像に写っている見た目が毎回まるで違う。
別の論文はもう少し踏み込んで、モデルが手の物理構造の事前知識を持てていないと書いています。
The inherent complexity of the human hand's structure, along with the occlusions between fingers, means that the Stable Diffusion model lacks the necessary prior knowledge of the precise physical structure of human hands, resulting in its inability to generate anatomically correct hands.
指が5本で、関節がこう曲がる、という骨組みをモデルは持っていません。見た目のパターンを覚えているだけなので、破綻した形も同じくらい自然に出てきます。
2. 手に関する言葉が、画像と結びついていない
こちらのほうが厄介です。
When the text prompt includes information related to human hands (e.g., "thumbs up" and "phone call gesture"), the model struggles to associate this with corresponding hand images, indicating its inability to accurately comprehend text containing hand-related information
手に関する語を書いても、対応する画像に結びつかない。thumbs up と書いても、モデルはその語が指す手の形をうまく引き当てられない。論文は最後をこう締めています——手に関する記述を正確に理解できていない。
この2つは、両方ともネガティブを否定している
ここが繋がります。
理由1からは、手の学習が薄いことが言えます。実際 Danbooru で bad hands は 3,357件、extra digits は 530件しか付いていません(ネガティブの記事)。数十万件のタグと比べて2桁少ない。
理由2からは、もっと強いことが言えます。 語で指示するという方式が根本的に不利だということになります。ポジティブでもネガティブでも同じです。
bad hands, mutated hands, poorly drawn hands と並べても手が直らないのは、語の選び方が悪いからではありません。手に対しては、言葉というチャンネルが細いからです。
実際に出して確かめました。 基準 と bad hands などを足した1枚 を比べると、手の状態は変わっていません。指の融合もそのままです(ネガティブの記事)。
論文の答えは「そこだけ塗り直す」
では研究者はどうしているか。HandRefiner という手法は、こう説明されています。
HandRefiner employs a conditional inpainting approach to rectify malformed hands while leaving other parts of the image untouched.
インペインティングです。手の部分だけをマスクして、他は触らずに描き直す。しかもこの手法は、3Dの手のメッシュを推定して「正しい手の形」を条件として与え直します。言葉ではなく、形そのものを渡しているわけです。
PixAI の「手修正」も、局所的なインペインティングだと公式が説明しています。 論文の解法と同じ形をしています。
プロンプトを書き直して生成し直すのは、別の絵を作ることです。運が良ければ手がまともな絵が出ますが、それは直したのではなく、引き直しただけです。
インペインティングは違います。採用した絵を保持したまま、壊れた領域だけを差し替える。構図も表情も背景も、気に入った部分は残る。
この違いは、作業の組み立て方を変えます。「手がダメだから捨てる」のではなく、「手以外が良ければ確保しておく」でよくなる。
顔修正が効く理屈
公式は顔修正について、引きの絵、集合シーン、横顔のショットに有効だとしています。
この3つには共通点があります。顔が画面に占める面積が小さい。
画像生成は決まった解像度の中で進むので、引きの絵では顔に割り当てられる情報量がそもそも少なくなります。そこを切り出して大きく描き直せば、同じモデルでも顔に使える情報量が増える。公式が挙げている3つの条件は、この説明ときれいに一致します。
⚠️ ただしこれは、公式の記述から筋を通しただけの推論です。PixAI が内部で何をしているかは公開されていません。
表情切り替えは、キャラ固定の道具でもあります
Enhance には表情だけを変える機能があり、キャラの同一性を保ったまま変えられると公式が書いています。
これはキャラ固定の観点で効きます。プロンプトを書き換えて表情違いを作ると、顔ごと別人になりがちです(キャラ固定の記事)。LoRA を作る前の段階で、表情差分を得る現実的な手段になります。
マスクモードと img2img
部分だけ直したいならマスクモードです。img2img はマスクを使わないので、直したくない部分まで動きます。
下のリンクから登録すると、招待した側とされた側の双方に 20,000 クレジットが付与されます。 現金ではなくクレジットでの特典です。無料プランのままでも使えます。
PixAI に登録する壊さないほうが安い
直せるとはいえ、修正にはクレジットがかかります。ツールを有効にすると消費が増えると公式が明記しています(クレジットの記事)。
構図で避けるのが最も確実です。 upper body や portrait なら手が入りません。手を見せる必要のないカットで、わざわざ全身にしてリスクを負う理由がありません(構図の記事)。
⚠️ 「低ステップだと手が崩れる」は、このサイトでは確かめていません。 DMD2 の8ステップで測ったのは同じシードの再現性までで、細部を高ステップと並べて比べてはいません(パラメータの記事)。ステップを上げれば手が直る、という手順はここでは勧められません。 直すなら下のツールの工程になります。
順番はこうなります。
- 構図で手を入れない(無料)
- 試行は低ステップで数を出す。手は見ない
- 採用した1枚にだけ Enhance をかける
修正を試行段階でかけるのは、捨てる絵にお金を払うことになります。
ツールボックスにあるもの
修正用ではありませんが、変換系のツールがまとまっています。
グッズ系 — 推しカード、タロットカード、缶バッジ、フィギュア、ぬいぐるみ、抱き枕、アクリルスタンド、LEGO ミニフィグ風
キャラ・シーン系 — キャラクターシート生成、ファンタジーカード生成、デスクトップマスコット変換、2人のインタラクション生成
スタイル変換 — ギャルゲ風UI、雑誌表紙、チェキ、巨大彫像、切り絵、クリスマス衣装
その他 — 画像アップスケール、リアルタイム生成、AIキス/ハグ動画生成
この中で キャラクターシート生成だけは、修正とは別の意味で効く可能性があります。複数角度の設定画を作る機能なら、LoRA 学習の素材づくりに使えます。キャラ固定には「学習に十数枚要るのに、1体目にはその十数枚がない」という循環があるので、ここが抜け道になります(キャラ固定の記事)。
⚠️ 未確認です。 ただし公式のけもみみOCガイドは「角度は1枚ずつ別に生成したほうがよい」(モデルは正面より横顔と背面の理解が弱いため)としているので、1枚で全角度が揃うことは期待しないほうがよさそうです。
自分で確認する必要があること
- 手修正の成功率 — どの程度の破綻まで戻せるかは公開されていません。⚠️ PixAI が論文と同じくメッシュ推定まで使っているかも不明(「局所的なインペインティング」としか書かれていない)ので、論文の成功率をそのまま期待しないでください。1枚かけてみるのが早いです
- Enhance のクレジット消費量 — 「増える」とだけ書かれています。試行段階でかけると捨てる絵に払うことになるので、量を知る前に多用しないほうが安全です
- img2img の Strength の推奨値 — 記載がありません。低い値から上げて、直したくない部分が動きはじめる点を探すことになります
- キャラクターシート生成が LoRA 学習の素材になるか — 使えるならキャラ固定の循環を切れます。LoRA を作る予定があるなら、素材集めを始める前に1回試す価値があります
出典
- HandRefiner: Refining Malformed Hands in Generated Images by Diffusion-based Conditional Inpainting(arXiv 2311.17957) — 変形と遮蔽が原因であること、解法が条件付きインペインティングであること
- Hand1000: Generating Realistic Hands from Text with Only 1,000 Images(arXiv 2408.15461) — 手の物理構造の事前知識が無いこと、手に関する語が対応する画像に結びつかないこと
- Enhance(PixAI公式ドキュメント) — 手修正が局所インペインティングであること、顔修正が有効な3条件、表情切り替えが同一性を保つこと
- img2img(PixAI公式ドキュメント) — マスクなしの全体参照とマスクモードの違い
- ツールボックス(PixAI公式ドキュメント) — 変換ツールの一覧
- クレジット消費(PixAI公式ドキュメント) — ツール有効化で消費が増えること
- Danbooru tags API —
bad hands3,357件・extra digits530件(2026-09-03 取得)
2026年9月4日確認、9月7日に論文2本の引用を原文と照合(一字一句一致)。あわせて「低ステップだと手が崩れる」を未確認として撤回しました。