PixAI攻略本

同じキャラを何度も出す — seed では固定できない理由と、LoRA に必要な枚数の正体

SDXL 系DiT 系なぜ SDXL 中心なのか

最終更新 2026-09-08

目次(8 項目)

同じキャラクターを、ポーズや表情を変えて何枚も出したい。オリジナルキャラを扱うなら必ずぶつかる課題です。

ここには手段を取り違えやすい点がひとつと、数字だけが独り歩きしている話がひとつあります。順に潰していきます。

seed を固定しても、同じキャラにはならない

まず seed から。

seed は生成の出発点になる初期ノイズを決める数値です。同じ seed・同じプロンプト・同じモデル・同じ設定なら、同じ画像が再現されます。ここまでは正しい。

問題はその先です。 ポーズや表情を変えるためにプロンプトを書き換えた時点で、出てくる画像は別物になります。初期ノイズが同じなので構図や色の傾向は多少引きずりますが、顔は動きます。

つまり seed は「同じ絵をもう一度出す」ための道具であり、「変数を1つだけ変えて比較する」ための道具です。「同じキャラで別のポーズを出す」ための道具ではありません。

傍証もあります。PixAI 公式のオリジナルキャラ一貫性ガイドは、プロンプト → 参考画像 → LoRA の3段階を示していて、seed には一言も触れていません。

⚠️ さらに、Web サービスでは同じ設定でも完全には一致しないことがあります(実装や演算精度、バージョンの差による)。PixAI での再現性は未確認です。同じ設定を2回投げれば分かります。

手段は3段階ある

公式が示している順序です。下から順に強くなります。

段階 方法 精度 限界
3 LoRA を学習する 最も高い。以降はトリガーワードだけで済む 学習用の画像が要る
2 参考画像(Reference Pro) 中 角度が参考画像から大きく離れると崩れる(公式が明記)
1 プロンプトで特徴を固定 低〜中 顔は完全には固定できない

レベル1:プロンプトで固定する

公式ガイドが挙げている原則は3つです。

永続的な特徴だけを書く。 髪の色、目の色、ほくろ、傷、アクセサリーのように、そのキャラから外れないものだけを入れます。衣装・ポーズ・背景は、そもそも変えたいものなので固定用の記述から外します。

色をパーツごとに繰り返す。 公式の例はこうです。

Write the color onto every part separately: silver hair, silver fox ears, silver fox tail. It is repetitive and it works.

⚠️ ただしこの例の silver hair は、Danbooru では非推奨で付与件数0件です。 公式が「grey hair か white hair を使え」としている語で、このサイトの基準では効きません(タグの基本の記事)。grey hair, grey fox ears, grey fox tail に置き換えてください。

⚠️ もうひとつ。fox ears(21.8万件)と fox tail(14.5万件)は実在しますが、grey fox ears という複合語は Danbooru にありません(2026年9月7日に API で確認)。つまりこれは学習されたタグを引く技ではなく、語を並べて解釈させる技です。公式が「repetitive but it works」と書いているのはそういう意味だと読めます。

語彙体系を統一する。 けもみみ/獣人/アンスロのどの語彙で書くかを決めて、混ぜないことです。

余談なぜ色を繰り返す必要があるのか

公式は理由を書いていませんが、タグ方式の性質から説明がつきます。

タグはそれぞれが独立した指定です。grey hair は「髪が灰色」としか言っておらず、耳や尻尾の色までは何も言っていません。人間なら「銀髪の狐娘なら耳も銀色だろう」と補完しますが、モデルは補完しません。指定されていない部分は、学習データの中で多い組み合わせに引っ張られます。

だから耳や尻尾が勝手に別の色になる。言い忘れではなく、そもそも伝わっていないわけです。同じ理屈は色以外にも効きます。「長い髪」と書いても前髪の形は決まりません。

余談けもみみOCなら、公式にもっと具体的な手があります

上の3原則は種類を問わない話ですが、獣耳・尻尾のキャラには公式ガイドに個別の対処が載っています。ここでは要点だけ挙げます。

  • 耳が2対になる(獣耳+人間の耳)のは Danbooru に extra ears というタグがあるほどよくある形。片方だけにしたいなら extra ears をネガティブに入れる
  • 尻尾の数がずれるなら fox tail に加えて single tail。多尾なら multiple tails と、数は文章側で書く
  • 帽子やフードは耳と場所を争う。「hood up」と書くのではなく、耳穴を開けて布が耳の根元に沿う、という仕組みを書く
  • 全身と背面のカットがいちばん崩れる。半身だと尻尾が写らないので気づかない

そして語彙を混ぜないこと(けもみみ/けもの/アンスロ)が最優先だと書かれています。混ぜると、生成のたびに「人か動物か」から決め直されます。

限界としては、顔が完全には固定できません。ここがレベル1の天井です。

レベル2:参考画像(Reference Pro)

1枚の画像を保持したまま、背景や衣装を言葉で指示して変えられます。参考画像は最大10枚まで同時に使えます。

限界は公式が明記しています。けもみみOC一貫性ガイド(Level 02)にこうあります。

once the angle drifts far from the reference, say the reference is a front-facing portrait and you want a high-angle over-the-shoulder look back, the ears and tail go loose again

正面の1枚から、俯瞰の振り向きを作らせると崩れる。 理屈も素直で、正面の1枚に背面の情報は入っていないので、足りない部分はモデルの推測で埋まります(参考画像の記事)。

⚠️ Reference Pro のドキュメントと公式ニュースには、限界の記述がありません(2026年9月7日確認)。上の記述はこのガイドにだけあります。

⚠️ Tsubaki.2 は参考画像に対応していません。 旗艦モデルなのに使えないので、参考画像を前提にするならモデル選択が制約されます(モデル選びの記事)。

画像を渡す方法は PixAI に複数あり、渡しているものがそれぞれ違います。どれを選ぶかで、似る部分と似ない部分が変わります(参考画像の記事)。

レベル3:LoRA — 「何枚必要か」は問いが違う

ここが本題です。

⚠️ 枚数は系統で違います。SDXL がキャラ15〜30枚、DiT が30〜100枚で、どちらも公式の数字です(LoRA の作り方)。以前ここで「情報が食い違っている」と書いていましたが、食い違いではなく、別々の系統の話でした。

そのうえで元をたどると、桁がまるで違いました。

DreamBooth の論文(Ruiz et al., CVPR 2023)は「just a few images(ほんの数枚)」で足りるとしています。 特定の被写体をモデルに覚えさせる手法の原典が、数枚だと言っている。

なぜ実務では15枚も30枚も要ることになっているのか。論文が枚数ではなく、別のものを解いていたからです。

本当の問題は「一緒に覚えてしまうこと」

少ない画像で学習させると、モデルはキャラの特徴だけを取り出してくれません。その画像に写っていた背景・ポーズ・衣装・光まで、まとめて「そのキャラらしさ」として覚えます。

結果、そのキャラを呼び出すといつも同じ背景で、同じポーズで出てくるようになります。これが過学習です。

DreamBooth はここに prior preservation loss という仕組みを入れて対処しました。論文はこの仕組みが防ごうとしている2つの症状を、こう書いています。

the model slowly forgets how to generate subjects of the same class as the target subject(language drift) there is a risk of reducing the amount of variability in the output poses and views of the subject(多様性の減少)

「そのキャラ」と「一般的な人物」を切り分けるように学習させることで、同じクラスの他の被写体を描く能力を保ちつつ、ポーズや構図の幅が狭まるのを防ぐという考え方です。LoRA も同じ文脈で使われていて、限られた枚数で過学習を抑える手段として組み合わせられています。

だから枚数ではなく「何を変えたか」

ここから実務的な答えが出ます。

枚数は目標ではなく、変化の軸を埋めた結果です。

公式が挙げている条件を並べ直すと、それ自体が軸の一覧になっています。

軸 変えるもの
角度 正面・斜め・横・背面
表情 笑顔・無表情・その他
衣装 少なくとも2種類以上
光 明るい・暗い・逆光
背景 きれいな背景(余計なものを覚えさせない)

同じ角度・同じ衣装で30枚集めるより、違う角度・違う衣装で15枚のほうが良い。 枚数を増やしても、変わっていない要素は永遠に切り分けられません。

軸のほうを先に決めれば、必要な枚数は自然に決まります。 SDXL の15〜30 と DiT の30〜100 という幅も、埋めるべき軸の細かさの違いとして読めます。

余談「language drift」という副作用

DreamBooth の論文には、過学習と並んで language drift(言語ドリフト) という問題が挙げられています。

特定の犬の写真で「犬」を学習させすぎると、モデルの中の「犬」という言葉そのものが、その犬に寄ってしまう。ほかの犬を描けなくなるわけです。

だから DreamBooth では、普通の名詞ではなく珍しい識別子を使います。PixAI 公式が「トリガーワードはベースモデルが知らない語にする」と言っているのは、これと同じ対策です。けもみみOC一貫性ガイドは理由まで書いています。

Words like fox girl, kemonomimi and wolf ears come with hundreds of thousands of images already attached in the base model. Use one as your trigger and your OC is now fighting every fox girl the model has ever seen.

推奨されているのは「キャラ名+短い接尾辞」(Castorice/hsr のような形)です。

短い一般名詞をトリガーにすると、その言葉が持っていた意味を上書きしてしまう。あなたのキャラを覚えさせた代償に、モデルがその単語を使えなくなるのは割に合いません。

⚠️ ただし「短くする」は SDXL と DiT.1 の話です。Tsubaki.2(DiT.2)だけは逆で、30文字以上が推奨されています(LoRA の作り方)。

実際に作る手順は、別の記事にまとめました

ここまでが「LoRA を作るかどうか」「作るなら何を集めるか」の判断です。

素材の条件・トリガーワードの書き方・費用と時間・公開して収益を得る方法は、手順の順番に並べ直して PixAI で LoRA を作る に置きました。⚠️ ベースモデル選びだけは後から取り返しがつかないので、集め始める前にそちらを見てください。

要点だけ挙げておきます。

項目
ベースモデル 実際に使う予定のモデルで学習する(THE GOLDEN RULE)。⚠️ Tsubaki.2 は後方互換が無く、他で作った LoRA は動きません
費用・時間 SDXL 75,000/15〜30分、DiT 200,000/DiT.1 約70分・DiT.2 約2時間
適用時の重み 0.6〜0.9(0.6未満で細部がにじみ、1.0超で元の画風が引きずられる → LoRA の重ね方)
無料学習枠 Starter 月3回/Plus 月5回/Premium 月10回。データセット再利用で50%割引

鶏と卵の問題

LoRA を作るには、そのキャラの画像が要ります。ところがオリジナルキャラの1体目には、まだ素材がありません。

順序としてはこうなります。

  1. キャラの永続的な特徴を5項目に絞る(髪色・髪型・目・体型・固有の目印)
  2. レベル1のプロンプトで、seed だけ変えて数十枚出す
  3. 顔が一致しているものだけ採用する
  4. 軸が埋まったら LoRA を学習する(使う予定のベースモデルで)
  5. 以降はトリガーワード+重み 0.6〜0.9

2の段階で「何枚出して何枚使えたか」を控えておくと、モデルを変えたときに比較できます。

⚠️ ここでEnhance の表情切り替えが効きます。キャラの同一性を保ったまま表情だけ変えられるので、表情の軸を安く埋められます(修正ツールの記事)。角度や衣装の軸は生成で埋めるしかありませんが、表情だけは近道があります。

まだ分かっていないこと

  • PixAI で seed の再現性がどこまであるか。同じ設定を2回投げれば確認できます
  • PixAI の LoRA 学習が prior preservation に相当する処理をしているか。公開されていません
  • 軸を埋めた10枚と、埋めていない30枚の差。仕組みからは前者が良いはずですが、比較していません。⚠️ DreamBooth の論文は被写体3〜5枚を推奨していますが、これは prior preservation を使ったフルの再学習の数字で、PixAI の LoRA(30〜100枚)とは手法が違うため、そのまま持ち込めません(2026年9月10日に調べて確認)
  • キャラクターシート生成が学習素材に使えるか。複数角度が一度に出るなら、鶏と卵の近道になります(修正ツールの記事)

出典

2026年9月4日確認、9月7日に公式ガイド2本の本文を読み直して出典と例を訂正。9月10日に DreamBooth 論文本文を読み直し、prior preservation loss が防ぐ2症状(language drift・多様性の減少)を原文つきで追記しました。