PixAI攻略本

「masterpiece」は品質を上げる語ではない — 上位5%が何で決まったか

SDXL 系なぜ SDXL 中心なのか

最終更新 2026-09-07

目次(9 項目)

プロンプトの先頭に masterpiece, best quality と置く。ほとんどの解説がそう書いていますし、PixAI 公式のチートシートも「品質タグは必須」としています。

ただ、この語が何をしているのかを説明しているものは少ない。モデルカードを読むと、想像とはかなり違うことが書かれていました。

品質タグは順位の指定である

NoobAI-XL はモデルカードで、品質タグの中身を公開しています。学習データを評価順に並べたときのパーセンタイルでした。

位置 タグ
上位5% masterpiece
85〜95% best quality
60〜85% good quality
30〜60% normal quality
下位30% worst quality

つまり masterpiece は「良い絵にしろ」という命令ではありません。「学習データの上位5%に寄せろ」という順位の指定です。

ここまでなら「上位5%=良い絵なんだから同じでは?」と思えます。問題はその順位が何で決まったかです。

上位5%は「人気順」だった

同じモデルカードに、順位の作り方が書かれています。

Data normalization based on various sources and ratings. Application of time-based decay coefficients according to date recency. (複数の情報源と評価をもとにデータを正規化し、日付の新しさに応じて時間減衰の係数を適用した)

評価(ratings)を正規化し、新しいものほど重く見る。 これは作品の巧拙を採点したものではなく、投稿サイトでどれだけ評価されたかの順位です。

投稿サイトで評価を集めやすいのは、ひと目で情報量の多い絵です。 描き込みが濃く、塗りが厚く、光が派手なもの。だから masterpiece を書くと描き込みが増える方向へ動きます。「品質が上がる」のではなく、そういう絵が集まっている棚を指しているわけです。

余談「新しいほど良い」が埋め込まれている

上の説明にあった time-based decay(時間減衰)は、地味ですが効いています。同じくらい評価された絵でも、新しいほうが上位に来るという重みづけです。

つまり品質タグには、「最近の絵柄のほうが良い」という価値判断が最初から入っていることになります。

面白いのは、NoobAI がそれを打ち消す手段も用意していることです。年代タグがそれで、old(2005〜2010)から newest(2021〜2024)まで5段階に分かれています。

品質タグで「評価の高い棚」を指しつつ、年代タグで「いつごろの絵柄か」を別に指定できる。2つの軸が分かれているのは、そういう理由だと考えると筋が通ります。

Pony の score タグは、説明どおりには効いていない

Pony 系は品質タグの代わりに score_9, score_8_up, score_7_up... を6段並べます。「score_8_up は上位80%以上を参照する」という説明とともに広まりました。

ただし作者本人が、そうなっていないと述べています。

モデルは個々のタグではなく長い文字列全体が「見栄えのいい画像」と相関すると学習してしまった、と Civitai の記事で説明されています。V7 で修正する予定だとも書かれています。

つまり6段の連鎖は、階層の指定ではなく、ひとつの合言葉として効いている。「短くすると効きが弱い」という報告も、同じ理由で説明がつきます。

同一シードで組み合わせを比べた検証記事もあります(出典参照)。⚠️ このサイトでは Pony 系を出していないので、何段が要るかを自分で確かめていません。

Pony 系に masterpiece を足す必要はありません。 score タグを6段そろえることにも、作者の説明のうえでは強い根拠がありません。

モデルとバージョンで変わる

ここが厄介なところです。同じ Illustrious でも、バージョンによって書かれていることが違います。

v0.1 のモデルカードは、worst quality / bad quality / average quality / good quality / best quality / masterpiece (quality) の6段を列挙しています(順位の中身は書いていません)。そして base モデルについて「aesthetics / preferences 向けにチューニングされていない」と自ら書いていて、通常用途には v0.1-GUIDED を勧めています。版によって aesthetic の扱いが違うことは、ここから読めます。

v1.0 のモデルカードに書いてあるのは、1536×1536 のネイティブ解像度と「自然文とタグを併用できる」ことで、品質タグの推奨は書かれていません。

⚠️ masterpiece, best quality, amazing quality + very aesthetic, newest という並びの一次出典が、公式側にありません。 第三者の解説(SeaArt・Tensor.Art)はそろってこう書いていますが、v1.0 と v1.1 のモデルカードには載っていません(2026年9月7日確認)。このサイトのビルダーもこの並びを採用していますが、「公式の推奨」として扱うのはやめます。

⚠️⚠️ ただし very aesthetic を「どこにも根拠が無い語」と読まないでください。 別系統のモデルでは、公式が既定の品質タグに入れています。NovelAI は V4 の発表(2025年2月)で、既定の品質タグを切ったときに手で足す並びとしてこう案内しています。

", best quality, very aesthetic, absurdres"

🔴 つまりこの語について言えるのは「Illustrious の公式推奨としては裏が取れない」までで、それ以上ではありません。 品質タグはモデルの系統ごとに公式の言うことが違うので、どの系統の話なのかを取り違えないことが要点になります(2026年9月9日追記)。

Illustrious の順位は、論文のほうに書いてあった

モデルカードには無いのですが、Illustrious の論文には品質階層が載っています。しかも NoobAI とは別物でした。

Worst quality ~8%, Bad quality ~20%, Average quality ~60%, Good quality ~82%, Best quality ~92%, Masterpiece ~100%

6段で、区切りも呼び方も違います。 NoobAI の normal quality に当たるのが average quality で、さらに bad quality があります。Illustrious 系のモデルに NoobAI の語をそのまま使うと、階層が1つずれます。

そして順位の作り方も書かれていて、Danbooru のポスト数で決めたとしています。「人気順」という性質は Illustrious でも同じです。NoobAI は評価の正規化+時間減衰、Illustrious はポスト数。どちらも絵の巧拙を採点したものではありません。

年代タグも別です。NoobAI は old(2005〜2010)から newest(2021〜2024)ですが、Illustrious の論文は「Oldest ~2017 / Old ~2019 / Modern ~2020 / Recent ~2022 / Newest ~2023」としています。同じ newest でも指している年が違い、mid と early は Illustrious 側に出てきません。

つまり「Illustrious 系の書き方」は一つではありません。 使っているモデルがどのバージョンから派生したかで、推奨が変わります。

系統 品質タグ 出どころ
Illustrious v1.0 系 masterpiece, best quality, amazing quality + 末尾に very aesthetic, newest ⚠️ 第三者の解説のみ(公式カードに記述なし)
Illustrious 論文の階層 worst / bad / average / good / best quality / masterpiece の6段 論文(arXiv 2409.19946)
NoobAI 系 masterpiece, best quality + newest, absurdres, highres モデルカード
Pony 系 score_9, score_8_up, score_7_up...。masterpiece は不要 作者の解説(Civitai)
PixAI のマージモデル モデルページの推奨が最優先 —

副作用:個性が消える方向に働く

品質タグには副作用があります。

顔が似通います。 いわゆる「マスピ顔」で、誰が描いても同じ顔に近づく。オリジナルキャラの一貫性を狙う場合には逆方向に働きます(キャラ固定の記事)。

画風が寄る方向に働きます。 「描き込み=評価が高い」という学習データの偏りが出るので、フラットなアニメ塗りやミニマルな絵を狙うときには不利に働くはずです。⚠️ ただし、このサイトの実測(上)で確認できたのは背景の描き込み量が変わったところまでで、外部の検証記事にある「セミリアル寄りになる」ほどの変化は出ていません。効き方の強さは系統やモデルで揺れると見ておくのが正確です。

この場合は品質タグを外すか、masterpiece をネガティブ側に入れる手もあります。

実務としてどうするか

  1. モデルページの推奨プロンプトを最優先する。 PixAI にはユーザーがアップロードしたマージモデルが多く、元の系統から性質がずれています
  2. 系統を見分ける。 推奨に score_9 があれば Pony 系、masterpiece や very aesthetic があれば Illustrious / NoobAI 系
  3. 引き算で確かめる。 同じシードのまま品質タグだけ外した1枚を出せば、そのモデルで何が変わるのかが1回で分かります

そして、狙う絵柄しだいで外す判断もあるというのが、この記事のいちばんの結論です。品質タグは「良くする」ものではなく「特定の棚に寄せる」ものなので、その棚が自分の狙いと違うなら、入れないほうが近道になります。

まだ分かっていないこと

  • very aesthetic の中身。⚠️ これは確かめたうえで「非公開」と分かったものです。Illustrious の論文が「aesthetic modifier の詳細は今後のモデルリリースで公開する」と明記しています("The details of these aesthetic modifiers will be disclosed in future model releases.")。つまり現時点では調べても出てきません
  • masterpiece, best quality, amazing quality + very aesthetic, newest の一次出典。第三者の解説はそろってこう書いていますが、公式のモデルカードには載っていません
  • Illustrious の階層を使うと何が変わるか。論文の6段(bad quality average quality を含む)を NoobAI 式の語の代わりに使った比較はしていません
  • PixAI 上のマージモデルが、元の系統の応答をどこまで保っているか。マージで効きが変わることは知られていますが、系統立てた検証は確認できていません
  • Pony V7 で score タグがどう変わるか。作者は修正を予告していますが、詳細は未公表です

実際に外してみました

Haruka v2 + DMD2・8ステップ・CFG 2・DDIM・3:5・シード固定で、変える語だけを1つずつ差し替えて出しました。(⚠️ CFG 2 は当時使っていた構成の値で、検証のために選んだものではありません。推奨として導いた 1〜1.1 はあとから出てきた値です → パラメータの記事)

品質は落ちていません。 キャラも構図も服装もほぼ同じで、変わったのは背景の描き込み量でした。黒板の文字、机の並び、時計まわりの精細さが目に見えて減っています。

「品質を上げる語」ではなく「描き込みを増やす語」という説明が、そのまま絵に出た形です。

⚠️ もうひとつ確かめようとして、確かめられなかったことがあります。very aesthetic を1語だけ外した1枚では絵が変わりました(セーラー襟が襟付きシャツになり、リボンが柄物になった)。ところがこれは「その語が効いた」証拠になりません。同じ実測で、Danbooru に0件の medium shot に置き換えた1枚も大きく変わったからです。語を1つ変えれば、効いていない語でも絵は変わります。

出典

2026年9月4日確認、9月7日にモデルカードと論文を引き直し(Illustrious 側の階層・年代・aesthetic の非開示を追記)、9月9日に very aesthetic の留保を系統ごとの話に限定(NovelAI の既定を確認したため)。9月10日に画風の副作用の記述を実測(上)と揃えた(「最大の障害」という出典なき断定を、確認できた範囲=背景の描き込み量に限定)。モデルの世代交代が速い領域なので、Pony V7 など新しい世代が出た時点で見直しが要ります。