Danbooru とは何か — タグの件数で何が分かって、何が分からないのか
このサイトでは「medium shot は0件なので使えない」「bad hands は 3,357件しかない」という書き方を繰り返しています。なぜイラスト投稿サイトの件数が、画像生成の効き方の話になるのかを説明します。
先に結論を書きます。件数が使えるのは「効かない語を弾く」ときで、「どれだけ効くか」を測る道具ではありません。 何が言えて何が言えないかを、順に切り分けます。
Danbooru とは
2005年から続く、アニメ・マンガ・ゲームのイラストを集めた画像投稿サイトです(英語圏)。
特徴はタグ付けの細かさです。投稿された1枚ごとに、人の手で画像の内容を表すタグが付けられます。女の子が1人写っていれば 1girl、長髪なら long hair、笑顔なら smile という具合に、1枚に何十個も付きます。
その結果、数百万枚の画像に、統一された語彙で説明が付いたアーカイブができました。たとえば long hair は 617万枚に付いています。
⚠️ 成人向けの画像も含まれるサイトです。見に行く場合はその前提で。
なぜ画像生成と関係するのか
アニメ系の画像生成モデルの多くが、この Danbooru のタグ付き画像で学習されているからです。
画像と、その内容を説明する語がセットで大量にある。これは「この語を書いたら、こういう絵を出す」を学習させるのに理想的な材料でした。NovelAI Diffusion や Waifu Diffusion は Danbooru 由来のデータを使ったことを明言していますし、いま使われているモデルも同じです。
- Illustrious — 公式モデルカードに "Fine-tuned on Danbooru2023 Dataset" と明記。⚠️ ただし「Danbooru タグを強く推奨する」とは書いていません(2026年9月7日に確認)。代わりに具体的な注意が書かれていて、
close-upやupside-downのような競合しやすい構図タグの多用を避け、upper body/portrait/full bodyを使うよう案内しています - NoobAI-XL — Danbooru と e621 のネイティブタグで学習と明記
- Animagine — 同じく Danbooru タグ系
つまり、こういうことになります。
モデルが確実に意味を知っている語彙 = Danbooru のタグ
日本語で「銀髪の少女が微笑んでいる」と書いても、モデルはそれを学習した語に翻訳し直すことになります。最初から 1girl, grey hair, smile と書けば、その一段が要りません。
照会すると3つ分かります
Danbooru には公開 API があり、タグ名を投げると実在するかと付与件数が返ります。ここから3つのことが分かります。
1. そのタグが実在するか
⚠️ ここは2つに分かれます。返ってくる答えが違うので、混ぜないでください。
- タグ自体が無い — 綴りとして登録されていない
- 項目はあるが 0件 — 登録されているが、誰も付けていない(非推奨で付けられない場合もある)
どちらも学習データには現れないので効きません。 ただし後者は「Danbooru 側が意図的に廃止した」場合があり、そのときは代替タグが指定されています。
| よく見る語 | API の答え |
|---|---|
silver hair |
あるが0件。非推奨で、Danbooru が「grey hair(102万件)か white hair を使え」としている |
hands on hips |
あるが0件。使われているのは hand on own hip(22万件) |
medium shot |
あるが0件(PixAI公式が推奨しているのに) |
cinematic lighting |
あるが0件 |
mutated hands poorly drawn hands |
タグ自体が無い |
rim light natural light |
タグ自体が無い |
2. どれだけ学習されたか(件数)
| タグ | 件数 |
|---|---|
long hair |
617万 |
looking at viewer |
489万 |
simple background |
284万 |
bad anatomy |
1.8万 |
bad hands |
3,357 |
extra digits |
530 |
4桁の差があります。
⚠️ ただし「件数が多いほど強く効く」ではありません。 このサイトの実測で、383件の golden hour が 39,287件の sunset と同じくらい効きました(構図・ライティングの記事)。件数は「効かない語を弾く」ためのフィルタで、効く語どうしの強さを比べる物差しにはなりません。
そして bad hands が効かない理由も、件数だけではありません。論文が「手に関する記述そのものをモデルが正確に理解できていない」と報告していて、語で手を指示する方式が根本的に不利です(破綻の直し方)。件数の話とは別の壁があります。
3. 正しい綴り
同じ意味でも、タグ体系で採用されている綴りは1つです。watercolor ではなく watercolor (medium)、cel shading(0件)ではなく flat color(13,735件)、という具合に。
⚠️ 綴りを直せば効く、とは限りません。 実測では flat color に替えても塗りは目立って変わりませんでした(構図・ライティングの記事)。綴りを直すのは「効かない理由を1つ消す」ことであって、効くことの保証ではありません。
落とし穴:意味が違うタグ
件数が多いのに、思っているのと違う意味のタグがあります。
PixAI 公式は顔だけを写すショットを「チョーカー」と呼んでいますが、Danbooru で choker は 617,732件の「首に着けるアクセサリ」です。そのまま書けば首輪が出ます。
件数が多いこと自体は、正しさを保証しません。 意味を確認する必要があります。
この方法の限界
正直に書いておきます。件数は目安であって、証明ではありません。
- 現在の件数と、学習時のデータは厳密には一致しません。 モデルは特定時点のスナップショット(Danbooru2023 など)で学習しており、その後も投稿は増え続けています
- 「件数が多い=強く効く」は成り立ちません。 相関が怪しいという話ではなく、反例が出ています。学習時の重み付けやキャプション処理まで追えないので、なぜそうなるのかも説明できていません
- Danbooru タグでない語がゼロ効果とは限りません。 SDXL のテキストエンコーダは自然言語で事前学習されているので、
uglyのような単語は普通の言葉としての意味を持ちます。ただし学習されたタグのような正確な結びつきはなく、ぼんやりした指定として働きます - すべてのモデルに当てはまるわけではありません。 Pony は独自のスコアタグを足していますし、Tsubaki 系(DiT)はそもそもタグ方式ではありません(モデル選びの記事)
それでも、「打っても効かない語」を事前に外せるだけで価値があります。効かない語は、書いた本人には失敗の原因として見えないからです。
自分で確かめる方法
Danbooru のサイトでタグを検索すれば件数が出ます。API なら https://danbooru.donmai.us/tags.json?search[name]=long_hair の形で直接引けます。
このサイトのプロンプトビルダーには、各タグに件数を表示してあります。0 や 530 のような語を選んでしまう前に気づけるようにするためです(6.2M と 13k のどちらが強いか、という使い方ではありません)。
出典
- Danbooru — 本体。tags API で件数を照会できる
- Danbooru(ピクシブ百科事典) — 2005年設立、タグ付けの仕組み
- Illustrious-XL モデルカード — "Fine-tuned on Danbooru2023 Dataset"、競合しやすい構図タグの多用を避けるよう案内。⚠️ 「Danbooru タグを強く推奨」という記述は無い(2026年9月7日確認)
- NoobAI-XL v1.0 モデルカード — Danbooru + e621 のネイティブタグ
2026年9月3日確認。件数はすべて同日に API で取得したものです。9月7日に実在判定を引き直し、「タグ自体が無い」と「あるが0件」の区別を訂正しました(silver hair hands on hips cinematic lighting は「存在しない」ではなく「あるが0件」)。