SDXL はいま、どこに立っているのか — 2026年9月の地図
目次(9 項目)
この本は SDXL 系の話が多いので、その SDXL がいまどこに立っているのかを一度まとめて置きます。PixAI が主力に置いているのは DiT 系の Tsubaki で、公式ドキュメントは SDXL 系のほうを「従来の」と呼んでいます(このサイトについて)。
モデルの世代交代そのものを扱う記事なので、2026年9月9日時点の地図として読んでください。
先に結論
| 中身 | |
|---|---|
| 強み1 | タグと LoRA の資産が、実質ここにしかない |
| 強み2 | つまみが全部ある(ステップ・CFG・サンプラー・VAE)。だから設定で何が変わるかを確かめられる |
| 強み3 | LoRA の自作が安い(PixAI で 75,000 対 200,000 クレジット) |
| 弱み1 | 長く書けない(実質75トークン)。新しい世代は512トークン |
| 弱み2 | 複数キャラが混ざる。ベンダー自身が「以前のモデルの大きな限界」と名指ししている(新しい世代は22人) |
| 弱み3 | 画像内の文字が描けない。マンガという用途がまるごと届かない |
| 弱み4 | 細部の精細さ。潜在空間のチャンネル数が4で、新しい世代(32)の8分の1 |
この4つは、実は別々の弱みではありません。2026年後半のモデルを並べると、出力の単位が「1枚の絵」から「1ページ・1セット」に移っているのが見えます(後述)。
移行は「3つの別の軸」で起きています
「新しいモデルに替わった」の中身は、独立した3つの交代です。ここを一枚岩で捉えると誤読します。
軸1: テキストエンコーダ(CLIP → T5・LLM)
プロンプトの長さと自然文の理解を決めているのはここです。アニメ系の NovelAI は 2025年2月の V4 で、こう書いています。
we had to extend the prompt context size to 512 tokens and replaced our CLIP text encoder with the T5 text encoder
実質75トークンが512になり、7倍近く広がりました。
注目すべきは、この V4 が U-Net のままだということです。同じ記事は "our improved U-Net architecture" と書いていて、骨格は SDXL と同じ系統に置いたまま、エンコーダだけを替えています。つまり「長く書けない」はアーキテクチャの問題ではなく、CLIP を使っているかどうかの問題です(タグの基本)。
軸2: アーキテクチャ(U-Net → DiT)
規模と効率の話です。上限側では FLUX.2 が32B、Qwen-Image が20B。一方で小さい DiT も出てきていて、Z-Image(2025年11月)は6Bで "sub-second inference" と "<16GB VRAM" を報告しています。
「DiT は大きくて高い」という前提は崩れつつあります。ここは SDXL の強みが安さだった部分に直接当たります。
「自然文で書くモデル=DiT」と読みたくなりますが、4通りの組み合わせのうち3つが実在します。
| モデル | 書き方 | 方式 |
|---|---|---|
| NovelAI V3 | タグ | U-Net(公式が "Based on SDXL, along with some technology of our own") |
| NovelAI V4 | 自然文(T5・512トークン) | U-Net(公式が "our improved U-Net architecture") |
| Neta Lumina/Anima | Danbooru タグが通る | DiT |
つまり書き方が教えてくれるのはテキストエンコーダと学習キャプションの形までで、本体の配線は分かりません。NovelAI V5 についても、公式は「独自のアーキテクチャ」としか書いていないので、DiT かどうかは判断できません。
一方で、プロンプトの挙動から分かることもあります。75トークンの境界で語の関係が切れるなら CLIP 系のエンコーダですし、日本語がそのまま通るなら学習キャプションか多言語のエンコーダの側に理由があります。
軸3: 条件付け(タグと LoRA → 参考画像と自然文の指示)
使い方そのものの交代です。SDXL に人を留めている理由(上の「強み1」)に直接当たるのが、この軸です。FLUX.2 のモデルカードにはこうあります。
No need for finetuning: character, object and style reference without additional training in one model
PixAI の Tsubaki.3 も同じことを、もっとはっきり書いています。
キャラクターを使い回すために、データセットを集めて学習を待つ必要はもうありません。いまはリファレンス画像1枚で足ります。
SDXL に残っている強み
1. タグと LoRA の資産
アニメ・イラストの LoRA は Illustrious とその派生(NoobAI-XL など)に集まっていて、そこは SDXL ベースのままです。借りて使う前提なら、量がある側を選ぶ理由になります。
よくある誤解なので分けて書きます。Danbooru タグは DiT でも通ります。Lumina2 ベースのアニメ DiT である Neta Lumina が、そう明言しています。
Still support Danbooru tags!
同じページは、なぜそうできるのかも書いています。
By training on a mix of plain language and tags, Neta Lumina accommodates both casual "spoken" prompts and professional tag workflows
Anima も同じです。土台は NVIDIA の Cosmos-Predict2-2B-Text2Image で、NVIDIA のカードが "diffusion transformer" と明記している DiT 系、テキストエンコーダは Qwen3-0.6B という構成ですが、学習はこうです。
The model is trained on Danbooru-style tags, natural language captions, and combinations of tags and captions.
名前が似ているので分けて書きます。PixAI にある Animagine XL は SDXL 系で、この Anima(CircleStone Labs)とは別物です。
つまりタグが効くかどうかは学習時にキャプションをどう作ったかの選択で、アーキテクチャの必然ではありません。PixAI が Tsubaki を文章向けに作ったのも設計判断だと読むのが正確です。
移せないのは LoRA のほうです。LoRA はアーキテクチャに紐づくので、基盤を替えると動きません。PixAI 自身、Tsubaki.2 には後方互換が無いと明記しています(LoRA の作り方)。乗り換えが重いのは、性能の差ではなく資産を捨てることになるからです。
2. つまみが全部ある
Tsubaki.2 はステップ数・サンプラー・CFG Scale・VAE のすべてが非対応です(モデル選び)。設定で何がどう変わるかを確かめられるのは SDXL 側だけなので、この本の実測記事が成立する場所も SDXL 側ということになります。
3. LoRA の自作が安い
PixAI での学習費は SDXL 系 75,000/DiT 系 200,000 クレジット、時間は 15〜30分 対 DiT.1 約70分・DiT.2 約2時間です(LoRA の作り方)。
SDXL の弱み
新しい世代が名指しで解決しているものを並べます。ベンダー自身の言葉なので、ここは推測ではありません。
複数キャラが混ざる
NovelAI が V4 でこう書いています。
We've also added multi-character prompting, addressing a major limitation of V3 and other models. V4 lets you specify prompts for each character separately, supporting up to 6 distinct characters in a single image, without any unwanted blending between them.
さらに位置の指定と、キャラ間の関係を書く仕組み(source#hug / target#hug / mutual#hug)まで付いています。タグを並べる方式では「誰が誰に何をするか」を書く場所がないので、これは書式ごと変わる差です。
数はさらに増えています。2026年8月21日の V5 では、公式のテストで最大22人を同時に配置できたと報告されています。6人と22人の差は、絵の話ではなく「何を作れるか」の差です。集合絵やコマ割りが射程に入ります。
画像内の文字が描けない
吹き出しに文字を入れられるかどうかで、マンガという用途がまるごと開きます。NovelAI V4・Tsubaki.3・Qwen-Image が、そろって最初に挙げているのがこれです。
細部の精細さ — ここは数字で追えます
NovelAI は V4 の時点で、SDXL の部品を名指しで置き換えていました。
we switched from SDXL's VAE to Flux VAE, which makes images clearer
VAE は、圧縮された状態の絵を実際の画素に戻す部品です。本体は縦横を8分の1くらいに縮めた「潜在空間」で作業していて、そこから戻す役をこれが担います。その潜在空間の1点あたりに数値を何個持たせるか(チャンネル数)が、保てる細かさを決めます。
| チャンネル数 | |
|---|---|
| SDXL の VAE | 4(公式の config.json の latent_channels) |
| NovelAI V4.5 | 16 |
| NovelAI V5(2026年8月21日) | 32 |
効き方は測られています。Stable Diffusion 3 の論文が 4 から 16 に増やしたときの改善を出していて、再構成の FID が 2.41 → 1.06、知覚的な類似度が 0.85 → 0.45 です。
we find that increasing the number of latent channels d significantly boosts reconstruction performance
NovelAI が V5 で細い線・宝飾・文字の精度向上をこの部品に帰しているのは、解像度を上げたのではなく器を大きくしたという意味になります。SDXL の 4 は、この軸でいちばん小さい世代です。
いま起きている変化は「出力の単位」です
上の4つを個別の弱みとして並べましたが、2026年後半に出たものを並べると、もっと大きな1つの変化に見えます。
PixAI と NovelAI が、別々に、同じ4つを最優先で挙げています。
| Tsubaki.3(先行体験中) | NovelAI V5(2026年8月21日) | |
|---|---|---|
| 入力 | 自然文(「タグの山ではなく絵を描写せよ」) | 自然文(英語と日本語を公式サポート) |
| 複数キャラ | 「複数キャラの複雑なシーン」を改善点に | 公式テストで最大22人 |
| ページ | マンガのコマ割り(Panel 1: 形式) |
一度の生成でコマ割りの完成したページ |
| 一貫性 | 参考画像1枚(@image1) |
キャラクター配置の作り直し |
つまり、出力の単位が「1枚の絵」から「1ページ・1セット」に移っています。どちらも「1枚をより綺麗に」で競っていません。
これが SDXL 系にとって重いのは、タグと LoRA の技能がこの単位に転移しないからです。「誰が誰にどうするか」「どのコマに何を置くか」「この文字は見出しか台詞か」は、語をコンマで並べる方式に書く場所がありません。上の「軸3(条件付けの交代)」は、実はこの変化の一部です。
PixAI はどこへ向かっているのか
公式の言葉と数字だけを並べると、方向は一貫しています。
| 内容 | |
|---|---|
| 位置づけ | 公式ドキュメントが Tsubaki.2 を「PixAI のフラッグシップ DiT モデル」「プラットフォーム上で現在最強」とし、SDXL 系を「従来の」と呼んでいる |
| つまみ | Tsubaki.2 はステップ・サンプラー・CFG・VAE・顔修正・HiRes・アップスケール・参考画像がすべて非対応。設定はモードとスタイルプリセットだけ |
| LoRA の供給 | モデルマーケットのトレンド上位 LoRA 20本のうち19本が DiT.2 向け(2026年9月8日に数えたもの) |
| 次の世代 | Tsubaki.3 が2026年8月12日から先行体験。改善点はテキスト描画・マンガ制作・複数キャラの複雑なシーンで、生成パネルも作り直し |
| 新しい操作 | Tsubaki.3 では参考画像1枚でキャラを使い回す(プロンプトで @image1 と指す)、自然文で画像を編集する、色をパレットで指定するが入る |
| 書き方の指導 | 2026年9月9日の公式プロンプト解説の題が「Describe the Picture, Not a Pile of Tags」(絵を描写せよ、タグの山を並べるな)。「前置詞と動詞のほうが形容詞より価値がある」として、関係を書くことを勧めている |
読み取れる方向は「つまみを減らして、言葉と参考画像で操る」です。SDXL 側は据え置きで、新しい機能は DiT 側にだけ載っています。
ただし DiT 側にも制約があります。学習のベースにできる DiT は Tsubaki と Tsubaki.2 だけで(v1.1・Flash・Serin は生成専用)、Tsubaki.2 に後方互換はありません。そして Tsubaki.3 の正式リリース日は未定です(公式が "Release date: to be announced" と書いています)。
それで、何を使えばいいのか
| やりたいこと | 向いている側 |
|---|---|
| タグで細かく制御する・設定を詰める | SDXL 系 |
| 既存の LoRA を借りてキャラや画風を出す | 借りる中心なら DiT、自作中心なら SDXL(モデル選び) |
| 安く大量に出して選別する | SDXL 系(クレジット)。ただし PixAI の課金体系に依存する理由なので、価格が変われば消える |
| 文字・マンガのコマ・複数キャラ | SDXL では届かない。DiT 側(Tsubaki.3 は先行体験のみ) |
| 1枚の参考画像でキャラを固定する | DiT 側(Tsubaki.2 は参考画像が非対応なので Tsubaki.3 待ち) |
自分で確認する必要があること
- Tsubaki で R-18 が通るか。ログインしないと確認できません。通らないなら、この本が SDXL 中心である理由に「そこでしか作れない」が加わります
- Tsubaki.3 の正式リリースと価格。上の表はリリースで書き換えが要ります。価格が Tsubaki.2 と同水準なら、費用の理由(SDXL のほうが安い)はそのまま残ります
- 参考画像1枚と LoRA で、同じキャラをどれだけ揃えられるか。このサイトでは比べていません。「学習が要らない」と「LoRA と同じ精度が出る」は別の話です
- Illustrious の DiT 版が製品になるか。Illustrious-Lumina-v0.03 は2Bの DiT ですが、公式カードが "The model is in Proof Of Concept stage" と明記しています。ここが製品になると、アニメ系の LoRA 資産が動きはじめる可能性があります
出典
- Tsubaki.2 — フラッグシップモデル(PixAI公式ドキュメント) — 「PixAI のフラッグシップ DiT モデル」「プラットフォーム上で現在最強」「従来の SDXL モデル」
- モデル概要(PixAI公式ドキュメント) — Tsubaki.2 の非対応項目の機能表
- Tsubaki.3 ショーケース(PixAI公式) — 参考画像1枚での使い回し(
@image1)、三面図・表情集、自然文での画像編集 - Tsubaki.3 Early Access Recruitment(PixAI公式ニュース・2026年7月10日) — テキスト描画・マンガ制作・複数キャラを改善点として挙げていること、生成パネルの作り直し
- Tsubaki.3 Showcase(PixAI公式ブログ・2026年8月17日) — "Release date: to be announced"
- 次世代モデル「Tsubaki.3」の先行体験を8月12日に開始(Metanomaly株式会社 プレスリリース) — 先行体験の開始日、期間中は1日30回まで無料
- NovelAI Diffusion V4 の発表(NovelAI公式・2025年2月28日) — CLIP から T5 への交代と512トークン、U-Net のままであること、複数キャラを「V3 と他のモデルの大きな限界」としていること、SDXL の VAE を Flux VAE に置き換えたこと、吹き出しの文字
- NovelAI Diffusion V5 リリース(NovelAI公式・2026年8月21日) — V4.5 の2倍以上の規模・268,000 B200 GPU時間・32チャンネルのカスタム VAE(V4.5 は16)・公式テストで最大22人・一度の生成でコマ割りの完成したページ・アルファ透過・英語と日本語の公式サポート。アーキテクチャの方式は「独自」としか書かれていない
- 各モデルの説明(NovelAI公式ドキュメント) — V3 は "Based on SDXL, along with some technology of our own"、V4.5 は T5 トークナイザ、V5 は "completely original"
- sdxl-vae の
config.json(Stability AI) — SDXL の潜在空間がlatent_channels: 4であること - Scaling Rectified Flow Transformers(Stable Diffusion 3・arXiv 2403.03206) — 「Improved Autoencoders」の節で潜在チャンネル数を 4 から 16 に増やした効果を測っている(再構成 FID 2.41 → 1.06、知覚的類似度 0.85 → 0.45)
- Tsubaki.3 プロンプト解説(PixAI公式ブログ・2026年9月9日) — 「Describe the Picture, Not a Pile of Tags」、日本語・韓国語・中国語をそのまま入力できること、
Panel 1:形式でのコマ割り、参考画像の2つの枠の挙動の違い - Neta Lumina(Neta.art Lab) — Lumina2 ベースのアニメ DiT で "Still support Danbooru tags!"、タグと自然文を混ぜて学習していること、8GB VRAM で動作
- Illustrious-Lumina-v0.03(OnomaAIResearch) — 2B の DiT、テキストエンコーダは Gemma-2-2b、"Proof Of Concept stage" で製品ではないこと
- FLUX.2-dev モデルカード(Black Forest Labs) — 32B の rectified flow transformer、"No need for finetuning" の参考画像対応
- Qwen-Image モデルカード(Alibaba) — 20B、Apache 2.0、"significant advances in complex text rendering and precise image editing"
- Z-Image(arXiv 2511.22699・2025年11月27日) — 6B の DiT で "sub-second inference"、"<16GB VRAM"、学習は "314K H800 GPU hours (approx. \$630K)"
- Anima モデルカード(CircleStone Labs) — 2B、"Built on NVIDIA Cosmos"、テキストエンコーダは Qwen3-0.6B、"trained on Danbooru-style tags, natural language captions, and combinations"
- Cosmos-Predict2-2B-Text2Image モデルカード(NVIDIA) — "diffusion transformer model designed for image denoising in the latent space"
2026年9月9日確認。9月10日に読みやすさのために文章を整理しました。Tsubaki.3 が正式リリースされた時点で、この記事は書き換えが必要になります(上の表と「それで、何を使えばいいのか」が直接影響を受けます)。